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非上場株式の財産としての厄介さ(2)

◆非上場株式に限らず、会社が資産を保有する目的は通常、事務所・店舗・工場・倉庫等の土地・建物や機械・器具・備品など、通常の営業活動を行うために必要不可欠であるか、賃貸料収入や配当などによる収益性を追求するためである場合がほとんどあり、純然たる投資としてなされている場合などの例外的なケースを除き、資産そのものの時価の上昇や下落を意識してこれを保有している訳ではないケースが大半なのではないでしょうか。つまり、通常、会社の経営者は売上や経費などの増減については常にその動向を意識しているのに対して、取得原価主義を原則とする旧来の会計基準の中では、それが財務諸表の中に即座に表現される仕組みがないこともあり、資産の含み損益のことまで意識して事業活動を行っている訳ではないはずです。その帰結として、今、自身が経営している会社が黒字であるのか赤字であるのか、年商・営業利益・経常利益がどの程度の金額になっているのかといった点については常に関心事の中心を占めているのに対して、例えば、工場用地の時価の上昇・下落のことなど、単なる外的経済現象の結果でしかない、と考えている経営者が圧倒的に多いものと推測されます。

◆しかしながら、その単なる外的経済現象の結果でしかない資産の含み損益が、時に非上場株式の評価額を大きく左右することがあります。特に価格変動の大きい不動産や上場・非上場の株式の時価が知らぬ間に大きく上昇したり、下落したりすると、これに伴って、これらの資産を保有する非上場株式の相続税評価額は、殊に純資産価額方式の評価において、会社の経営状態とは全く異なる次元で、大きな変動を余儀なくされることになります。もちろん、こうした事象は個人が資産を直接所有している場合においても同じように起きていることなのですが、会社を通じて資産を間接的に所有している場合、その保有目的が投資ではなく、営業である場合には、なおさらそうしたことが意識の埒外にあるため、理不尽な事象として目に映る場合も多いのではないでしょうか。

◆何故なら、仮に営業活動を行うために不可欠な工場の土地の価格が上昇したとしても、その工場の土地を処分しない限り、その含み益は「絵に描いた餅」でしかなく、キャッシュフローベースでその恩恵を受けられる訳ではないからです。また、所得税においても法人税においても、未実現利益には課税しないという大原則があるため、「絵に描いた餅」は課税所得を構成することもないことから、経営者にとって、税制面からも利益として認識されにくくなっているという現実があります。逆に、土地や株式の資産価値が恐慌等の不可抗力の事象によって著しく下落した場合、その金額の振れ幅が何十年も苦労して積み上げて来た内部留保の金額を上回ってしまい、オーナー経営者の意に反して、株価がゼロになってしまうといった結果が生じることもあり得ない訳ではないのです。

◆もちろん、そうした資産の含み損益によって大きく増減する命運を持つ非上場株式の評価額は、そのまま相続税や贈与税の課税の場面で採用されるため、その直接的な効果は後継者なり、相続・遺贈・贈与による株式の取得者が直接、享受することになる訳ですが、創業者にとっても、また、後継者や相続人・受遺者・受贈者にとっても、普段、意識していない資産の含み損益による評価額への影響が思いの外大きく、その評価のメカニズム上、「こんなはずではなかった」という結果を生むケースがあり得ることも、非上場株式の厄介さの一つなのではないでしょうか。