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コラム

税法における特別法と一般法の位置付けについて

◆法律の世界では<特別法優先の原則>というものがあり、法学部の学生は最初に「特別法は一般法に優先する」というルールがあることを学ぶのですが、税法においては、国税通則法が全ての税目に共通する位置付けの「一般法」とされており、所得税法・法人税法・相続税法・消費税法等の各税法がこれに対する「特別法」の位置付けとなります。国税通則法第4条に定められた「この法律に規定する事項で他の国税に関する法律に別段の定めがあるものは、その定めるところによる。」がこうした税法における各法律の位置関係を示しています。また、各税法は各税目の規範上は一義的には「一般法」の位置づけとなり、租税特別措置法や災害減免法(災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律)がその上位に位置する「特別法」となります。 

◆例えば、未分割財産が事後的に分割された際などに適用される相続税法第32条の【更正の請求の特則】の請求期限は、その第1項各号に規定された事由が生じたことを「知った日の翌日から4月以内」とされていますが、これは国税通則法第23条第1項に定められた各税目に共通する大原則の【更正の請求】の期限である「当該申告書に係る国税の法定申告期限から5年」や同条第2項に定められた各後発的事由の「確定日(あるいは更正または決定日、やむを得ない理由が生じた日)から2月以内」とは大きく異なっています。言うまでもなく、この相続税法第32条の特則を適用する場合の請求期限は「4月以内」のルールの方が優先され、国税通則法に記載された「5年」や「2月以内」の期限は効力を持ちません。このケースにおいては、国税通則法が「一般法」であり、相続税法が「特別法」となっているからです。

◆一方、所得税法では譲渡所得に関して基本的に全て総合課税方式の中に組み入れられて課税される建前(第22条・第89条・第165条)となっており、土地・建物・構築物や有価証券に関する分離課税制度の内容や仕組みについては、一切触れられていません。これらの分離課税制度に関しては、基本的に全て租税特別措置法に定められており、同法第31条によりその年1月1日現在で5年を超える所有期間の土地・建物・構築物の譲渡(分離長期譲渡所得)が、同法第32条により同じく5年以下の所有期間の土地・建物・構築物の譲渡(分離短期譲渡所得)が、同法37条の10(一般株式等)及び同法37条の11(上場株式等)により有価証券の譲渡が、各々他の所得と区分して分離課税される旨が定められています。つまり、所得税に関する「一般法」として位置付けられる所得税法だけを読んでも所得税の体系は理解できないようになっており、各税法の「特別法」として位置付けられる租税特別措置法についても併せて理解しておかなければなりません。

◆因みに、【贈与税の基礎控除】について定めた相続税法第21条の5は未だにこれを60万円としていますが、【贈与税の基礎控除の特例】について定めた租税特別措置法70条の2の4は、平成13年1月1日以降の贈与につき、これを110万円と読み替える旨の条文構成となっており、租税特別措置法が相続税法を上書きするかのような体裁となっています。ここでも、相続税・贈与税に関する「一般法」として位置付けられる相続税法だけを読んでも相続税・贈与税の実務体系は理解できない仕組みとなっていることがお分かり頂けるのではないでしょうか。特に相続税制の体系において基幹的な役割を果たしており、その一丁目一番地とも言える最も重要な規定である【小規模宅地等についての課税価格の計算の特例】が昭和58年の法制化以降、一貫して租税特別措置法第69条の4(創設時は70条、昭和59年4月1日から平成12年3月31までは69条の3)に置かれており、既に40年以上の長きに渡り、本法に組み入れられる気配がないのは、個人的には税法の体系における大きな歪みの一つなのではないかと考えています。