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コラム

非上場株式評価上の3年内取得等不動産の時価課税制度(3)

◆前回、非上場株式評価上の純資産価額評価における3年内取得等不動産の時価課税制度に関して、特定非常災害の発生日前に取得・新築した被災特定地域内のものにつき、平成29(2017)年4月の個別通達の制定により、この取扱いの対象外とされるように改められた点に触れました。この通達は、前年の4月14日に発生した熊本地震を契機として、同年の税制改正において、被災資産の評価額や被災者の相続税の申告期限につき、大幅な減免を図る趣旨により創設された「特定土地等及び特定株式等に係る相続税の課税価格の特例」(租税特別措置法第69条の6~8)を補完する目的で発遣されたものであり、前述した通り、そこに保護すべき事象、あるいは偶発的な事象を含んでいることに配慮して導入されたものと思われます。

◆さて、それではこの時価課税制度に関して、その他に設けられている例外措置は全くないのでしょうか? 実はこの点につき、実務上、いずれも税法や未上場株式の評価に関して定めた通達そのものには書いていないため、見落とされがちな項目が二つほどあります。その一つは棚卸資産としての不動産です。これは、そもそも税務と言うより、会計の世界に属する論点であり、不動産の販売を業とする会社において、土地・建物は通常、《固定資産の部》ではなく、《流動資産の部》に「販売用不動産」あるいは「販売用土地」「販売用建物」といった科目で計上することが一般的であることによります。要は、その取得時に会計処理を行う時点で、既に通常の土地等・建物等とは取扱いが異なっており、3年内取得等であるか否かにつき、最初から問題にするような対象から外れてしまっていることとなるためです。

◆そして、もう一つの項目が被相続人から遺贈により取得した不動産です。言うまでもなく、会社は法人格を持っているため、元々、相続取得ということはあり得ませんが、遺贈や贈与により不動産を取得する可能性はゼロではないため、こうしたものを時価課税の適用対象とするか否かについては、疑義が生じるところです。さらに、既に廃止されている個人向けの取得価額課税の特例においては、相続・遺贈・贈与等により取得したものが対象外となっていたことを考え合わせると、評価会社に対して遺贈・贈与されたものも対象外とすべきではないか? との連想や類推が生じてもおかしくありません。ところが、現実には贈与に関して定めたものは存在せず、遺贈取得のケースについてのみ、課税庁内部の研修資料に、個人のケースとは全く次元の異なる論点から、これを対象外とする旨が記載されている事実があります。

◆具体的には、評価会社が被相続人から遺贈により取得した土地に関する質疑に対して、東京国税局課税第一部・資産税課・資産評価官による平成18(2006)年7月作成の「資産税審理研修資料」の中に、課税時期前3年以内に取得した土地に該当しない旨が回答されています。その根拠は、意外にも「課税時期前」という法令用語の解釈にあり、「以前」「以後」のように「以」をつけたものは基準時点を含む場合に用いられ、「前」「後」のように「以」をつけないものは、基準時点を含まない時に用いられることから、相続日当日の取得は、法令解釈上、課税時期前3年内に含まないことになるためである旨が記載されています。もちろん、これは10年以上も前の課税庁の(しかも、東京国税局管内のみで周知されていた)内部資料に過ぎず、現在も有効なものであるか否かについては、判然としない所があります。

◆ただ、それでも被相続人からの遺贈取得に関して、これを時価課税制度の対象外とする見解が課税庁内部に存在していることは、一定の意義があることであり、そもそも何故、現在も存置されているのか分からないこの制度に一つの光明を当てるものであると言えなくもありません。それならば、例えば繰越欠損金のある法人に対して、受贈益課税が生じない範囲で個人が贈与した不動産はどうなのか? といったことにつき、照会してみたくなりますが、少なくとも現在、こうした贈与のケースについて書かれたものは見当たらないため、課税庁がこうした事例に対して、約四半世紀前に廃止された取得価額課税の特例との整合性も検討した上で、通達や質疑応答事例などにより、きちんと回答を行い、無用な疑義が生じないようにすることを望みたいところです。