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コラム

非上場株式評価上の3年内取得等不動産の時価課税制度(1)

◆非上場会社の株式を評価する際、1株あたりの純資産価額の算定上、課税時期前3年以内に取得等した土地等・建物等につき、(路線価や固定資産税評価額に基づく)相続税評価額ではなく、時価(通常の取引価額)により計上することを定めたルールがあります。これは、バブル経済崩壊前夜の平成2(1990)年8月、当時の課税庁にとって、目に余るものと映っていた〈行き過ぎた節税対策〉を封じる目的により導入された評価通達の抜本改正項目の一つであり、土地保有特定会社や株式等保有特定会社など、一定の要件に該当する評価会社につき、原則として類似業種比準価額の採用を認めないこととするルールも、この時に同時に追加されています。

◆この規定は当時、個人が相続開始前3年内に取得等した土地等・建物等につき、取得価額により評価することを定めた旧租税特別措置法第69条の4(昭和63(=1988)年創設)との均衡を図る目的により導入されましたが、その後、元となっていたこの個人向けの不動産の購入等による節税対策封じのための税制は、バブル経済の崩壊に伴う地価の大幅な下落により、課税庁の想定を遥かに超えて、相続税額(14億4千万円)が相続財産の時価(11億3千万円)を上回るような事例が発生する程の異常事態を招くこととなりました。

◆このような事象が起きたことは、この規定が当時、社会問題となっていた相続税破産を起こす原因の一つであったことの証左に他なりませんでしたが、こうした状況に対して、納税者から訴訟が起こされ、平成7年10月17日、大阪地裁は財産権の保障を定めた憲法第29条に反する疑いが濃厚であるとして、課税庁敗訴の判決を下しました。この税務争訟の歴史の中でも特筆すべきものとなった画期的な判決を受けて、旧租税特別措置法第69条の4は平成8(1996)年改正にて廃止され、時代の大きな変化に翻弄されつつ、僅か8年でその役割を終えることとなりました。

◆ところが、こうしてその導入の元となったはずの個人向けの節税対策封じの税制が廃止された後も、この未上場会社の株式評価における純資産価額の算定上、課税時期前3年以内に取得等した不動産を時価評価する旨を定めた評価通達185の前半部分に挿入されたカッコ書きは、未だ存置されたままとなっています。国会の議決を経ることにより初めて成立する法律と、国税庁長官が各国税局に対して発遣する通達という、規範としてのポジションの違いはあるにせよ、その導入時に均衡を図ることとされた元の税制が廃止されてから約四半世紀を経過した現在も、明らかな不均衡・不合理が継続しているのです。