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最近の申告書様式等の改訂について(1)

◆令和4年に国税通則法及び税理士法等の改正がなされて以来、申告・税務代理業務に関連する書類の様式改訂がこの数年にわたり、立て続けに行われています。その背景には令和3年に発足したデジタル庁が主導する【デジタル・ガバメント推進方針】の存在があり、そこには、①デジタルファースト、②コネクテッド・ワンストップ、③ワンスオンリーと呼ばれる〈行政手続IT化にあたっての3原則〉が掲げられています。今回はこれらのうち、③のワンスオンリーの原則(一度提出した情報は、再提出不要)の考え方に基づいて改正されることとなった修正申告書・更正の請求書の様式改訂の内容について取り上げてみたいと思います。なお、このワンスオンリーの原則は、デジタル手続法(情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律)の第2条の第二号にも基本原則の一つとして規定されています。

◆まず、課税標準(所得税・法人税では課税所得、相続税・贈与税では課税価格)や申告納税額が増加する際に提出する修正申告書について、これまでの様式では修正前、修正後、それらの増差額という3つの観点より課税標準及び申告納税額等を記載することとされていました。相続税に関して言えば各納税者ごとに「イ.修正前の課税額」「ロ.修正申告額」「ハ.修正する額(ロ-イ)」といった欄がタテに並列して設けられていたため、一覧性が高く、我々税理士や納税者にとっては極めて分かりやすい様式であったと言えます。一方、所得税においては第5表に、贈与税においては第3表に「別表」として課税標準の計算から申告納税額までの全ての「修正前の課税額」に関する情報を記載することとされており、課税標準の差額に関する記載欄はなく、増差税額についてのみ、所得税では第5表右側の税額計算欄の下に、贈与税では第1表の最下段に記載する方式が採られていました。

◆ところが、国税通則法第19条第4項に定められた「修正申告書の記載事項」の内容が令和4年に改正されたことに伴い、所得税・贈与税に関しては令和4年分より、相続税に関しては令和5年1月1日以後の相続開始分よりこれらの様式が改訂され、現在では「修正前の課税額」の内容を記載する項目は全て姿を消して、期限内申告書と同様に「修正申告額」のみを記載する形式となり、別途、申告納税額に関して修正前の課税額や増差税額等を記載する形式が採られています。正にデジタル庁が推進するワンスオンリーの原則(一度提出した情報は、再提出不要)が実践された結果であると言えますが、手元に修正前の期限内申告書等のデータを持っている状態であればまだしも、そうでない場合には、新たな様式の修正申告書だけを見ても修正された内容が分かりにくく、新様式では、税理士や納税者にとっての「一覧性の高さ」は消失してしまったように思われます。

◆他方、何らかの事由により過大申告がなされており、課税標準や申告納税額が減少する要因があることから、課税庁に対して減額更正処分を求める際に提出する更正の請求書においても、これまでの様式では更正前後の課税標準及び税額等を記載することとされていました。具体的には、所得税においては「請求額の計算書」とタイトルが書かれた表の最上段に「申告し又は処分の通知を受けた額」と「請求額」の欄が、贈与税・相続税においては次葉に設けられた表の最上段に「申告(更正・決定)額」と「請求額」の欄がいずれもタテに並列する形で設けられた様式が採用されていました。更正の請求は申告ではなく、単なる請求に過ぎないことから、元々、これらの差額を表示する欄はありませんでしたが、それでも修正申告書と同様に、これらの様式には一定の一覧性が備わっていたと言うことができるように思われます。

◆この更正の請求書の様式についても、令和4年に国税通則法第23条第3項に定められた「更正の請求書の記載事項」の内容が改正されたことに伴い、所得税・贈与税に関しては令和4年分より、相続税に関しては令和5年1月1日以後の相続開始分より「更正前の課税額」の内容を記載する項目は削除され、現在では全ての税目につき「請求額」のみを記載する様式に改められています。ここでもデジタル庁のワンスオンリーの原則が貫かれていることは明らかですが、課税庁が既に納税申告書の提出等により所有しているデータを改めて記載する必要がないという点については一定の合理性があると思えるものの、税理士や納税者にとって、仮に元の申告書のデータが手元になくとも、ある程度、請求の内容が分かる「一覧性の高さ」が失われてしまったように思える点については、修正申告書の様式と同様の現象が起きているものと考えられます。

◆これらの改正による様式改訂の内容は、いずれも【デジタル・ガバメント推進方針】に則っており、課税庁や日税連が一体となって進めている電子申告を主流とする方向に動いている時代の流れや、利便性・簡素化の観点からは、確かに望ましい方向として歓迎すべきなのかも知れません。また、以前に採用されていた様式において、「申告(更正)前の課税標準等」の記載内容が誤っているケースもあったものと推測され、それにより、課税庁の書類審査に無駄な時間を要していた側面があったとすれば、これらの改正が税務行政の効率化に資することも間違いないものと思われます。しかしながら、我々税理士から見れば、これらの申告書類とは別に、Excel等により「修正(更正)前」「修正(更正)後」「それらの差額」を記載した資料を作成しなければ、納税者に対して充分な説明がしにくくなったことは否めず、その意味において、一定のほろ苦さを伴う様式変更であったように思えてなりません。