◆借地権の帰属に関する判断は税理士の弱点と言っても良い面があり、多くの税理士がこの問題に関する判断を誤っているように見受けられます。恐らくそれは、借地権の認定課税制度(法人税法第22条、同法施行令第137条、法人税基本通達13-1-3等)があるが故に、この制度による益金課税を受けることなく土地所有者(多くは役員)から借地人(多くは同族法人)に対して借地権が移転することはあり得ないと考える税理士が圧倒的に多いためであろうと考えられます。
◆しかしながら、所得課税と財産課税は、そもそも制度として別物であり、必ずしも連動する訳ではありません。財産課税はそこに財産価値のある一定の権利が存在しているか否かだけが問題であり、権利の移転そのものやそこから生じる果実に対して実際に所得課税がなされているか否かということに必ずしも左右されません。もちろん、そうした利益に対して適正に所得税の申告・課税が行われている方が望ましいことも確かでしょう。けれども、それが財産課税における判断上の必須要件になっている訳でもないのに、律儀に課税の整合性に義理立てする必要などないのです。元々、別制度でしかない所得課税の〈単なる課税もれ〉の責任を納税者自身や税理士が負わねばならぬ理由など何処にもないからです。ところが、殊に税理士が双方の税務代理人を務めているケースで、これを硬直的・倫理的に考え過ぎる余り、借地借家法上の借地権の有無という本質を見ずして、所得課税との整合性のみに囚われた判断している者が極めて多いように見受けられます。
◆この論点に関する具体的な判断の指標等についてはいくつかのポイントがありますが、税額へのインパクトが極めて大きいにもかかわらず、前回取り上げた旧広大地制度の問題とは逆に、この借地権の帰属に問題を精査した上で、更正の請求を試みようとする税理士はほとんど見かけません。それは法的知識や経験知を必要とする分野であり、財産権の有無に関する事実認定の問題だからです。この結果、実際には同族法人などに対して通常の路線価割合による借地権が帰属している(移転している)と判断すべきようなケースにおいても、誤って「法人に認定課税がされていないから借地権は移転していない」と考えてしまい、貸宅地として評価すべき土地を更地で評価したり、折衷案的に20%の擬制借地権を見て、自用地の80%相当額で評価したりするような申告が散見されることになります。
◆因みに、これと似たような例として「賃料収入を不動産所得として申告していないと貸家・貸家建付地の評価が出来ない」と考えている税理士も驚くほど多いように思われます。これも上記借地権の問題と同じで、所得課税と財産課税を硬直的・倫理的に整合させようとするため起きる誤りと言えます。ここでも、最も重要な判断指標は借地借家法上の借家契約の有無即ち借家権の有無であって、賃料収入を適正に申告しているか否かは財産課税上の借家権控除の適否の判断には必ずしも連動しないのです。